ブロックチェーン技術の良さの一つは、さまざまな業界においてトレーサビリティ1が確保できることです。この記事では、ブロックチェーン技術を生かすことでどのような分野でトレーサビリティを確保できるか分析していきます。
1…物品の生産から廃棄までの過程が追跡可能な状態のこと。
サプライチェーンマネジメントでのトレーサビリティ
サプライチェーンマネジメントでは、トレーサビリティによって商品やサービスの質を保証することができます。多数の供給者が生産の過程(サプライヤー、複合貨物流通者、税関当局、物流会社など)に関わる商品やサービスは数え切れないほど存在します。ここでブロックチェーン技術は、商品開発者とエンドユーザーの両方が商品の原産地を調べることができる、改ざん防止の情報レイヤーを提供することができます。Provenance、Grassroots、Bext360、サプライチェーンのためのIBMブロックチェーンがその良い例です。

実際にRSKのパートナーであるdexFreightは、ブロックチェーンを用いて物流の管理方法を変えつつあり、スマートコントラクトと機械学習を用いたオープンソースプロトコルによって、今までなかった可視性と透明性を実現しています。ブロックチェーンを利用して業者の身元や客観的な評価をチェックできるようにすることで、摩擦が少ない直接取引できる市場で、運送業者がビジネスパートナーを見つけ取引をすることができます。さらに、トークン化された即時決済や国境を越えた決済により、仲介人無しで直接取引するエコシステムのコストを削減できます。
医薬品業界でのトレーサビリティ
医薬品業界でのエンドツーエンドのトレーサビリティは偽造薬物を防ぐために最重要事項です。以前の記事で分析したように、Mediledger2、Farmatrust3、Medrec4、Modsense5が、医療業界に対してブロックチェーン技術がどうやってトレーサビリティを確保しているのかをよく示しています。医薬品業界では、ブロックチェーン技術によって医薬品の信頼性向上、偽造の防止、医薬品業界のサプライチェーン全体のコンプライアンスの向上が期待できるでしょう。
2…医薬品サプライチェーン向けのオープンで分散型のネットワーク
3…製薬や医療業界での来歴管理システム
4…医療機関が患者の過去のカルテに簡単にアクセスようにした。
5…貨物の温度監視システム
食料品業界でのトレーサビリティ
ここ数年食料品業界では、エンドユーザーが購入した商品の安全性など品質にかかわる問題が頻発しました。中国で約30万人の乳児が汚染された牛乳を摂取し、健康被害が出たというのも、消費者が改ざんできない状態で記録された生産過程の各段階を確認できる技術の必要性があることを示す事例といえるでしょう。食料品産業では、トレーサビリティによって食中毒のリスクが劇的に減少し、ベジタリアンやオーガニック食品の愛好者が商品の生産過程を確認できるようになります。Grassroots6、Bext3607、Provenance8、TaelPay9、アリババのフードトラストフレームワークなどが良い例です。またウォルマートは、フードサプライチェーンにこれまでになかった透明性を確保するためにどのようにHyperledger Fabricを利用しているかをより詳しく説明したケーススタディを公開しました。
6…貨物の温度監視システム
7…コーヒーの生産と流通のプロセスをブロックチェーン技術で管理することに成功している。
8…物流に透明性を与えることを目的としている。
9…採用や販売などでトークン化を行う。
金融政策でのトレーサビリティと予測可能性
伝統的な金融システムの主な欠点の一つは、長期スパンでは国民がインフレ率や金利を直接コントロールできないことです。安定的な通貨システムでは原則、通貨の価値が変動しても景気後退やデフレのような金融危機にならないように、通貨供給量を統制する権限を持っています。しかし、経済史では、安定化は不可能で、ハイパーインフレと通貨切り下げの過程で様々な経済が崩壊したという例が数十年の間いくつもありました。結局のところ、単純な事実に帰着します。信用貨幣を持つ人々はインフレや金利を直接コントロールできないので、長期的にはフィアット通貨の購買力も直接コントロールできません。

ブロックチェーン技術は、長期的に自国の通貨の購買力を国民がより確実なものにできるような枠組みを提供できるのでしょうか。CBDC(中央銀行デジタル通貨)は、様々な国による広範な研究のテーマとなってきました。「Casting Light on Central Bank Digital Currencies(中央銀行デジタル通貨のキャスティングライト)」と題されたIMF(国際通貨基金)の論文やIBMの「Central Bank Digital Currencies(中央銀行デジタル通貨)」のレポートは、この技術がどのように探究されているかを示す良い例です。
さらに、J・P・モルガン・チェースが米国の大手銀行として初めて独自の暗号通貨を生み出したこと、ゴールドマン・サックスが2018年にポロニエックスを買収したこと、そして最近発表されたIMFの暗号通貨に関する論文はブロックチェーン技術が金融政策策定のための技術的枠組みになり得ることをはっきりと示しています。
では、ブロックチェーン技術はこのプロセスにどのように貢献していくのでしょうか。
プログラマブル・マネー10は、政府が固定された発行レートで金融政策を展開しうる新たな金融の枠組みを提供する可能性を持っています。つまり、政府はもはや自由に貨幣を印刷することができなくなり、厳しいインフレ率を維持しなければならなくなります。
国民がインフレ率をコントロールできるようになれば、当然、政府の信頼性が高まります。信頼と信用は健全な経済の基盤であり、この面では、各国政府がそれぞれ定義する金融ルールを尊重すれば、ブロックチェーン技術は大いに貢献する可能性を秘めています。しかし、システムから現金が完全になくなった場合、プライバシーが失われるので国民は反対するかもしれません。さらに、多くの中央銀行や国民は、マイナス金利につながる可能性がある変化よりも、金利が発生しない価値形態(紙幣など)を維持することを望むケースが多いです。中央銀行デジタル通貨は、新たに世界金融の枠組みの基礎を築けるのでしょうか。
これはおそらくブロックチェーン技術の中でも議論が最も活発となっている利用法の一つであるため、時が経てばわかるでしょう。もし中央銀行デジタル通貨にご興味をお持ちなら、RSKのCEOの記事と中央銀行のデジタル通貨に関する最近のブログ記事をぜひ忘れずチェックしてください。
10…取引条件がプログラムによって決定されるお金
原文:Traceability for End Users Through Blockchain Technology
CBDCついて以前にも当HPでご紹介しておりますので、併せてご覧ください!
・【銀行x暗号通貨】暗号通貨は法定通貨になり得るのか?(3/3)
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