医療分野でのブロックチェーン活用事例~課題と解決事例~

一般的に暗号通貨は2017年には価格がピークだったと言われています。実際にマーケットを見ても、それ以降は小刻みな変動を繰り返しているだけです。しかし、トム・リー氏やFinder.com CEOのジョン・オスラー氏のように価格が上昇すると予測している専門家もいます。彼らは暗号通貨が様々な分野に浸透し、その価値を高めると考えています。中でも各地の企業や政府機関が注目している分野が医療です。

医療分野でブロックチェーンを取り入れる利点は、耐改ざん性とトレーサビリティでしょう。ここでは、実例を踏まえて今後の展開を予想していきます。

日本の医療分野の課題

日本の医療マーケットは世界2位の規模を誇っていますが、問題点もかなり多いと言われています。

データ管理コストの増大

多くの病院では患者のカルテを紙やローカルデータを利用して保存しています。もちろん、個人情報保護の観点からこれらの対策は欠かせないかもしれません。しかし、患者は複数の病院に行くたびに、健康状態を説明する必要が出てきます。処方される薬剤の中には他の薬を併用すると危険なものもあるので、服用している薬剤を全て申告しなければなりません。そのため診断結果が患者の自己申告に左右されることも起きています。

過去の症例を探そうとしても紙では、なかなか探すことが出来ないなどの理由から電子カルテを利用している病院も多いでしょう。ただ、電子カルテを導入しても問題は尽きません。病院ごとでテンプレートが異なるため、データの共有が難しいこともその1つです。

働き手の少なさ(特に介護領域)

医師や看護師の不足は地方で特に目立っています。厚生労働省の調査によると、医師の平均的な労働時間は1週間あたり70.4時間でした。過重労働による自殺も増加傾向にある現在、医師の残業削減への対策が急務となっています。そして、この現状は少子高齢化により、更に悪化するかもしれません。

アメリカで「Silver Tsunami」という新語が作られるほど、世界では高齢化が進んでいます。中でも日本は高齢化が最も早く進んでいるとして注目されている国と言えるでしょう。2025年には団塊の世代が75歳を超え、後期高齢者と見なされるようになります。そして、2040年には若者が1.4人で1人の高齢者を支える時代になるようです。医療分野においても働き手の少なさが現状よりも顕在化するでしょう。

アンメット・メディカルニーズ*1への対応

薬剤の開発競争が進み高血圧など既存の薬剤がある疾病については、効果の高い薬剤が販売されるようになってきました。しかし、いまだに治療薬や対処方法がない疾病が数多く存在しています。これらの疾病に対する医療ニーズがアンメット・メディカルニーズです。各製薬会社はこのニーズを満たすために研究に励んでいますが、まだまだ解消できていません。

その理由は新薬の創出にかかる時間の長さにあります。一般的に新薬の開発には9~17年の年月が必要とされており、創薬の最終フェーズである臨床実験に入ってから失敗となることも珍しくありません。結果、膨大なコストをつぎ込んだものが無になってしまうのです。政府や企業はこの現状を問題と認識しており、「創薬シーズの実用化に関するエコシステム構築のための調査研究事業」等を設立し、創薬効率化のための運動をしています。

*1…5万人未満(厚生労働省の定義による)の、いわゆる希少疾患と呼ばれる難病を指します。

RSKブロックチェーンを利用してできること

共有データシステムの構築

従来、紙で保存されていたデータを電子カルテに保存し、異なる病院間でシェアします。暗号通貨のように誰もがアクセスできるパブリック型と、限られた人間がアクセスできるプライベートのクラウドを利用することで、安全かつ効率的に情報を送信できる方法も取られています。もちろん、クラウド以外にも多様な方法があります。

ブロックチェーンのストレージ機能を利用すると、共有データシステムの構築が進みます。例えば、RSKのRIFストレージでは医療データを分散型ネットワークに保存できる可能性があります。RIFストレージは分散型であるため、ネットワーク上にデータが存在する限り記録が破棄されることはありません。また、有名な症例でアクセスが集中すればレイテンシが高くなることもあります。RIFストレージのCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)では複数のサーバーを利用するので、アクセスが集中しても閲覧スピードは落ちないところも魅力です。

エストニアでは国家が個人の健康情報を管理し、必要に応じて各病院に提供しています。この管理システムはブロックチェーンで構成されており、政府であっても編集をすることはできません。プライベート型のブロックチェーンを利用しているため、秘匿性も抜群とされています。ブロックチェーンを利用することで、個人情報保護の壁を超えて効率化できた良い例でしょう。

こうした共有化によって電子カルテの一次利用(診察に使用する)や二次利用(健康に関する基礎情報を作成する)がより促進されます。HIMSS*1のCEO、ハロルド氏によると、電子カルテがライフスタイルの情報と結びつき、統合的な情報プラットフォームとなるのが理想形のようです。

電子カルテ情報のみならず、自覚症状や日々の運動、食事といったライフログ情報をも統合し、本人及び医師に共有されるヘルスケアシステムが求められています。全ての情報が融合され、共通言語として24時間365日、どこからでもアクセスできるような形になる、そんな理想形が現実になってきています。

引用:HIMSSのCEOが語った、日本医療を革新する第一歩とは?

電子カルテの共有は上記以外にもメリットがあります。ここでは、代表的なものを紹介しておきます。

  • 似たような症状の診断結果が検索できる。
  • 紙の管理に使用していたスペースがなくなる。
  • 薬剤処方時に縦覧点検、突合点検を行い重複使用を防げる。
  • テンプレートがあるため簡単に入力できる。

電子カルテ生成のに使われるブロックチェーンには秘匿性が重視されます。先述したRSKは機密保護にも優れています。そのカギとなるのはRSA方式*2のデジタル署名です。RSA方式は金融分野における国際標準であり、現在主流の暗号技術だとされています。RSKは現時点*3でRSA方式を採用している唯一のブロックチェーンです。RSKはビットコインと連動するマージマイニングをしていることで有名です。この際、通貨間の移動に対してフェデレーションという機関を置くことで安全性を高めています。以上のように何重にもセキュリティ保護が行われているため、プライバシー保護という観点から言ってもRSKには健康情報保護システムの基盤となる可能性があるでしょう。

*1…医療情報管理システム(The Healthcare Information and Management System Society)の略。企業や医療専門家から構成され、医療技術の革新や医療業界の改革を推進している組織です。

*2…素因数分解を利用した公開暗号方式の一種で、デジタル署名では暗号化を公開鍵によって行い、復号は個人のみが所有する秘密鍵によって行われる。デジタル証明書にも利用される。

*3…2019年8月現在

僻地や孤島への遠隔医療

ブロックチェーンを利用した遠隔医療で有名なテック企業といえばDoc.comが連想されるでしょう。専用のアプリをダウンロードするだけで、24時間365日医師からのアドバイスが貰える仕組みです。その他にも提供されているサービスがあり、サービスの購入には「Doc.com Token」というトークンが使用されています。

ところが、このサービスはアメリカ大陸とスペインでしかサービスを展開していません*1。日本にもこのようなサービスが展開されれば、離島や地方などでの医療サービス向上に役立つでしょう。実はこのサービスは先述したRIFストレージを利用する共有データシステムの構築と非常によく似ています。そのため、将来的にRSKで遠隔医療サービスを展開することも夢ではないでしょう。遠隔医療は都市部の住民にも利益をもたらします。都市部でも具合が悪いのに保険証や診察カードを持って病院まで行かなければならないという手間が省けるようになるかもしれませんね。

詳しく考えてみましょう。まずセキュリティですが、RSKにはマージマイニングが実装されています。これはブロックチェーンのマイナーにRSKでもマイニングを行ってもらう仕組みです。マイナーが増えるほどセキュリティの堅牢性が高まるとされています。将来的にはビットコインと同程度まで確立したセキュリティになるようです。ブロックチェーンを利用しているため、データを改ざんされることもありません。

*1…2019年8月現在

新薬システムの効率化や新しい治療法の発見

ブロックチェーンを利用することで、創薬に関わるプロセスを効率化することができます。これまでは決済やトレーサビリティ機能による偽薬販売の防止が一般的でした。ところが、2019年2月にIBMがドイツの多国籍企業Boehringer Ingelheim*1と提携し、製薬プロセスの簡略化を検討すると発表しました。この取り組みが上手くいけば、製薬システムの効率化も図れるのではないでしょうか。

新しい治療法を開発した企業もあります。Lancor Scientific*2はブロックチェーンを利用したAIを活用し、癌の早期発見を行うシステムを開発しました。細胞にセンサーを当てて癌の反応を確認する装置で、雑多な生体反応を取り除くためにブロックチェーンが利用されています。使用される場所によって結果が変わってしまうなどの問題もあるようですが、従来のように高い料金を支払わない癌検診は画期的なシステムです。

*1…世界TOP20に入る製薬会社

*2…がん発見率を向上することを目的としているイギリスのベンチャー企業

少しずつデータ規制の仕組みを整える

この記事で紹介された例はいずれも実際に行われているものです。これらのようにブロックチェーンを使用してデータの蓄積や共有が活発になるにつれてプライバシーの問題がでてきます。データの悪用が行われないように仕組みを整え、かつ有効活用できるような制度の枠組みを整えることがデータ活用の鍵なのかもしれません。

そして、こうした医療のシステムに利用できそうなブロックチェーンがRSKです。RSKは送金以外にも利用でき、圧倒的に早い処理速度とスケーラビリティを誇ります。今はまだ開発途中ですが、開発が終了すれば、この記事で紹介したような機能を統合した新しい医療システムの登場も夢ではないでしょう。活用方法を考えるのが楽しみですね。